【心の杖言葉】 道は虚にとどまる 虚とは心斎なり ― 荘子・人間世篇 ―
歌手・声楽を職業に選ぶ方は、声の美しさ、歌の上手さはもとより、常人より広い音域をお持ちの方である。 職業vocation,Beruf は天からの召命が原意だという(天職)。 仕事は「仕」も「事」も「つかえる」と訓ずる。 然らば何につかえるのか。 東洋的には「道」につかえると解したい。 とまれ、今まで出ていた音域が出なくなったときの衝撃・落胆は察するに余りある。 加齢には勝てないということか。 元祖御三家の一人橋幸夫さんが引退を表明された。 テノールからバリトン域、難なく出されていた方である。 たくさんのヒット曲、またデュエット曲もたくさんある。 昭和歌謡「若い二人の心斎橋」は橋幸夫さんと吉永小百合さんの曲だとずっと思っていたが違った。 御三家にプラス一人、四天王といわれた三田明さんと吉永小百合さんの歌であった。 曲も歌詞も現在からみるとベタな楽曲であるが、若くて美しい吉永小百合さんと「美しい十代」の三田明さんが歌うから魅力的であった。 何百万というサユリストがしびれた。 先年、認定こども園施設長研修で彼の地を訪れたとき、船場から心斎橋を歩くが、かつてのレトロでエレガントな趣はもはやない。 この地もまたアジア系の外国人が喧しく連れもって闊歩していた。 「心斎」とは程遠い。 根源的一者、根源的真実在である「道」は心虚しくすること、言い換えるとあるがまま(自然)の状態であり、それが心斎であり、そこに集まるというのである。 道の道とすべきは常の道にあらず(老子道徳経)。 根源的真実在の道は言表不可能だという。 言うものは知らず、知るものは言わずとまで言う。 その表現不能な「道」を(老荘は)なんとかあの手この手で迫ろうとする。 心虚しくすること、虚であり、心斎にこそ道はやどるのだという。 それはまた「学道の人貧なるべし(随聞記)」の「貧」にも通じる。 (令和4年2月) |
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