甲州光沢山青松院


【心の杖言葉】

罪障の山高く 生死の海深し
  (ザイショウノヤマタカク ショウジノウミフカシ)
― 柏崎 地謡より ―

 『柏崎』はいわゆる「狂女もの」といわれる能楽のひとつです。越後の国、柏崎の領主が鎌倉で急逝したことをその妻は知らされ、夫の死を受け入れることなどできないと嘆き悲しみ、加えて父の死に絶望して出家する息子・・・。二人を一度に失った領主の妻は心乱れ狂わんばかりに・・・。

 ・・・やがて妻は女人救済で名高い長野善光寺に導かれるように参ると、不思議なことに出家した息子もその地で母と再会し互いに喜び合うというストーリーです。『柏崎』は夢幻能ではなく現在能です。

 作家の五木寛之さんでしたか。イケイケの青年期をとっくに過ぎ、壮年期から老年期、晩年に差し掛かると「下山の風景」が見えてくると仰ってたのは。登山に譬えての言葉です。

 若い時にはあまり意識しなかった人間の持っている罪と業。その中で生きていかざるを得ない私たちの定め。まことにヒトの一生とは不思議なものです。

 生死はセイシではなくショウジと読みます。四苦八苦の生老病死、愛別離苦、怨憎会苦、五蘊盛苦、求不得苦が凝縮されたものです。
 
(令和5年3月)






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